夜の谷川俊太郎/いとう
夜中に枕元で谷川俊太郎が詩を朗読している
確かな滑舌で(谷川さん)
完璧な技術で(谷川さん)
「ここは台所ではありません(谷川さん)」
谷川さんは「定義」を読み終えると
次に「ことばあそびうた」に取り掛かる(谷川さん)
「そのギャップが楽しいのですか?(谷川さん)」
「あなたは何を見ているのですか?(谷川さん)」
「あなたにとって詩とは何ですか?(谷川さん)」
冷静に語りかける(谷川さん)
できるだけ友好的に(谷川さん)
谷川さんは少しだけ朗読を止めて
武満徹が、と天井を見上げ
それからまた∧かっぱかっぱらった∨と(谷川さん)
谷川さんは詩を朗読している
話しかけているのではなく
詩を朗読して
詩を朗読し終えて
それから、大岡信が、と呟いて
「夜のミッキーマウス」のように下水道を通って消えていった(谷川さん)
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