一目惚れ。/大覚アキラ
たまたま人からもらって一度だけ食べたお菓子の味が忘れられないのに、どこのなんというお菓子なのかさっぱりわからない。しかも、その人とは音信普通になってしまって、もはやそのお菓子を探す手がかりが何もない。
そんな経験、ないだろうか。
別にお菓子でなくても構わない。誰かに連れていってもらった裏通りの洒落たバーでもいい。運転中にFMで流れていた曲でもいい。自分の心のど真中に一瞬で突き刺さったのに、それっきり再会できないままの、いわば一目惚れの恋の相手とでもいおうか。
実はぼくにも、そういうのがひとつある。
以前に通りがかった画廊のショーウィンドウに飾られていた一枚の絵。海辺で母親
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