天敵のいない八月/いとう
 

上手く眠れないままの空が白み始める。轟音
で走り去る獣たちもわずかで、その咆哮にも
ためらいが見える。廃墟の影に潜む小人たち
は闇が消えていくに連れ恐る恐る顔を覗かせ
覗いた顔を逆に覗かれて恐れられる、ことを
知らずに小人たちは恐れる。

空気は湿っているが澱んではいない。空は低
く、雲の影が獣たちを覆い尽くす。多くの獣
たちはやり過ごす術を知っているが、影の重
みに耐えられないものもいて、死骸がそここ
こに漂っている。小人たちが時折それを廃墟
に運んでいく。

生きるのに懸命なものはとても静かだ。小人
を捕らえて食むと磨り潰される気配がするが、
小人は鳴かない
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