俵松シゲジロウの倦怠/みつべえ
 
 シゲジロウは大戦前の生まれである。
 幼くして酒屋の丁稚奉公に出され相当苦労した時期もあったが、まあ今となってみれば概ね平穏な人生だったと本人は思っている。
 戦場に駆り出された時も五体満足で本土に帰還できたし、美人ではないが気立ての良い妻を迎えて家庭も持った。一男一女の子宝にも恵まれたし、ごく普通に真面目に働いたおかげで、小さいながらも自分の店を構えるまでになった。
 やがて娘をこれといって取り柄はないが誠実な会社員のところに嫁にやり、家業を継いだ長男も賢くはないが丈夫でよく働く女と一緒になった。いまでは三人の孫までいる。順風満帆とは言い難いが、過不足のない幸福な営みだった。
 しかし
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