八月の西の窓/佐々宝砂
 
窓ガラスがかたかたと鳴るのは
風のせいではない

カーテンが明るさに焦げているのは
西日のせいではない

窓に背を向けて本を読み続ける
誰かが肩に手を置く
焦げた風が髪をちぢらせる臭い
無視して珈琲をひとくち飲むが吐きたくなる
肩に置かれた手は小さく弱々しく
焼けた肉の悪臭

しょうがないので振り向く

窓がすこしひらいている
わずかにカーテンの隙間がある

そこから入ってくるのは
白熱に灼かれた怨念

八月の西の窓を
閉ざしておけない私は
きっと
愚かなのだろう
戻る   Point(7)