肥溜の中から産声を/みもる
 
駅のホーム隅のいつも同じ場所に
仙人のような老人が

生きているのか死んでいるのか
疑問に思わせるくらい微動だにせず眠っている

ニュースで流れている
数字だけで表される悲しみは

どれだけ増えようと
君一人に勝ることはない

毎日マリア様に祈る少女の
父親はとうに戦死し
母親は別の男と楽しくやっている

被害者たちの永遠の悲しみをよそに
それでも地球はしあわせに満ちている

まるで彼らをあざ笑うかのように

骨一つも残さずに消えてしまった君に
儚い願いを込めて

どうか届けと
果てない海に花束を投げ入れると

釣りをしていたオッサンに
「海にゴミを捨てるな」と怒鳴られる

帰りに同じ道を通ると
仙人の姿は消えていた

ぼくは

ぼくは今日も夜な夜なナイフを磨ぐ

来たるべき日が来た時に
すべてを切りひらくために
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