窓ふく人/折釘
 
空がきれいに映った窓の拭き手
命綱に繋ぐ彼が空を拭く手
見上げるのはあんまり小さい
 動かす腕の振り幅

すべての空を拭き終えるには
ビルさえ朽ち残らない

 しずくひとつ零しても
 地面に辿り着くまでに
 蒸発してしまうから
 指に恐くありませんか


夕日がゆっくりつぶ落ちるを拭き取る窓に
はっと息ふきかけ彼が拭き取る窓に
見つめるあんまり小さい
 まばたく瞳の深さ

すべての光を浄め終えるには
街さえ倒れ残らない

 明かりひとつ灯しても
 くうきを進む合間にも
 散り飛んでしまうから
 胸に冷たくありませんか


彼は反射するほどゆがむ世界を拭いて
彼は鴉が疲れて帰り舞う路を拭いて
急な風に傾いた
 すべての命を抱き終えるには

あんまり小さな足場も宙に
消滅してしまうもの
あなたの篭の揺れが
記憶の中で残像です



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