冬の海のバラッド/狸亭
真冬の外房の海は重く静かに
藍色に拡がり風も無く澄んでいる
寄せて来る波は高く聳え立つ岩に
強く白く砕けてその音に聴き入る
城ヶ崎海岸に立っても染み入る
目の届く限りの海は幻覚を乗せ
日蓮死して七〇〇年の絶え入る
夕波の音が静かに伝える末世
海を越えて遥かな国々からじかに
押し寄せる情報の波は煮え滾る
湯のように熱い 時に冷たい心に
時間空間を同時にダブルスチール
しながら海は暴力的に攻め入る
表面は静かでも奥は深い似非
に塗れていたり突如としてひた走る
閃光は数知れぬ虚報を吹き寄せ
目を開けていると底知れぬ物思いに
落ち込みその物量に犯され滅入る
おんなじ陸地に棲んでいてもお互いに
透明な言葉にもどかしく苦り切る
青い目茶色の目が混じる
黒い目は驚きのあまり人を泣かせ
夢の中で食べさせられた無味を強いる
なんたる時代だろう全て番狂わせ
ぼくらを取り巻く情報は海のように
大量に狂おしく日々流れ入る
汚染の進みゆく海に浮かぶ濁世
冬の海風はますます寒く身を切る
(押韻定型詩の試み 6)
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