砂糖がとけるまえに/midori
 
私を大人にしたのは劇だった。
舞台だった。
10才の私を優しく撫でてくれたのは
人の視線という魔物。
言葉(台詞)に心をこめて発せられない子供だったのだろうか。
よく覚えていない。
ただ、戦時中の無邪気な娘を演じていた。
幼ながらに感じる胸にあふれる涙。
友達と舞台そででふざけあう私も。どれも私をこうさせた。

そしていま私は密室にいる。
鳴るのはヘッドフォンからもれる刺刺しいあなた。
さあどうする?
或る男は云った。「お前は犬だ。」必死な様子。
ああなんて馬鹿らしい。私は可愛いフリをして肯く。
心のない御免を繰り返しながら。
「僕は君のなに?」男は核心を砕いた。
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