「かのこ」とアイデンティティ/かのこ
そうだ。あの空々しい夜明けの日
あのひとがわたしを呼んだ
わたしはかのこだった。
今ここにはない、となりの席で
あなたがわたしを呼んだ
わたしはかのこだった。
もしかしたら、夕方5時の鐘を聞いたとき
レモンティーの飴をもらったとき
わたしはかのこだった。
繋いだ手がするりとほどけてしまうのを恐れていたとき
わたしはかのこだった。
呼んでくださいな。もっともっと
箪笥の中を覗いて
お椀をさかさまにして
すすきの穂と穂の隙間にも響くように
そう、そうして呼んでくださいな。
わたしの瞳はらんらんと
あなたを見ている。
呼んでくださいな。
名前じゃなくって、呼んでくださいな。
戻る 編 削 Point(2)