虚と実のバラッド/狸亭
男がさ虚で女が実なのか
虚が女でさ実が男だって
どちらがどちらであったらいいのか
そんなことを考えながらだって
日は過ぎてゆくのだし思い切って
電話したのだよ十年前の
あの女にさなんという身勝手
女の姉さんが電話口での
迷惑顔暗い声で仄か
に伝わる深夜のホテルにあって
実の男はさてどうしたものか
虚であるのにしくはないと思って
実はそこにいないと言われたって
むかしの面影が男の夢の
奥からあらわれて酔っぱらって
からんでくる虚実あの手この手の
手練手管にうつらうつらなのか
体中神経が逆立って
悶悶転転の十字砲火
に晒され濃い炎燃え上がって
眠りから朝の目覚めに至って
釜山タワーを見上げる見覚えの
ある町並みの不揃い今もって
静かなる朝の国虚の人への
想いは大空に消えていくほか
致し方ない男はなんたって
妻も子もある平凡な夢想家
機首ははや東京に向かって
(押韻定型詩の試み 3)
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