連作(2/3) せつない女の湿った影/岡村明子
 
雨をゆるやかにまとった女の
影だけがゆきすぎる
せつない女は雨を吸収し
湿気た影がゆきすぎる

足跡は砂浜に続く
カラスがついて歩く
にごった海の中で
魚たちは地上のせつなさを知らない
ただ皆目
行き場のわからないストレスと
たたかっているのみだ
その見開いた目で

いつか恋していた頃の
咽返るようなにおいはなく
ただわずかな残り香を蒸散させながら
せつない女の湿った影がゆきすぎる

体を持つことの罪悪に
その体を十字架として
足跡はただ砂浜に伸びる


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