横断/kw
雨晴れの街路を背広姿の男が歩いていた
身体の半分だけが墨汁を被ったように色濃い
彼は傘を持っていない
横脇に並ぶデパートのショーウインドー
アーチ型の小さな雨除けは
全身を雨滴から守るには不十分だ
時折立ち止まっては道端にしゃがみ
靴べらで足元を正す
奇妙な奴だな
合わぬ靴なら買い換えれば良いだろう
好奇と不審の入り交ざった目で見つめていると
何度目かの立ち往生に
男の膝はガクリと砕け骨は間接から外れてしまう
接着面の弱まったプラモデルの仮止め
義足だった
男は痛み一つ感じない顔をして
血の通わぬ膝を叩いて直す
目的有る通行人に次から次へと追い抜かれる
蟻行列の先頭の置石だ
全ての網膜を通り過ぎる光景に
目頭がじわっとなったから
僕は目深に帽子を被った
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