臭う家/千月 話子
 
毛むくじゃらの家猫が出かけて行ったきり
帰って来ないものだから
庭の木で啼くスズメの声が
遠慮なく鳴る目覚まし時計で
最近は、誰よりも早く窓を開けて
新しい風を味わう

あめ色の古机の上では
文鎮を落とした原稿用紙の角が
軽く揺れている

五日前に小皿に盛った 煮干しが
今だ帰らぬ牙王の餌にならず喜んだのか
二匹こぼれて文字になっていた
  腐敗前の歓喜 とも言う
ああ、これを一マスずつ並べて 詩でも書こうか



漁村では、風向きにより 時折
新鮮な内臓の匂いが鼻先を通り過ぎる
そういう時は、いつも
朝食に取り扱い注意だと聞いていた
くさや と言う
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