汚れた棒縞のドレス/吉岡孝次
だけど淋しさからくる欲望は
娘のあたしにはうけとめられるものじゃなかったんだ
塩森恵子『ハーフ・ムーン2』
父が帰ってきた
灯下に目を凝らせば 服が
濡れている
「何でもない」 と
一言で片付け
狭い階段を上がっていった
ああ
この後ろ姿は前にも見たことが
あるのではないか
広い肩幅がべっとりと疲れ切って
(今日もまた
父は病を冒してきたのだろうか) などと
血の慣わしにも踏みしだかれた統辞法で 考える
黙っていても
構図のなかの父は いかにも文人らしい冷ややかな
狂気を噛んで
急行を一つ先で降りた駅から遠く
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