目覚めよと呼ぶ声の聞こえ/佐々宝砂
かあさんは裏庭にチガヤを植えなかった。
壁を緑に塗らなかった。
とうさんは健康的に山を登り、
かあさんは家で本を読み、
かあさんはおもての庭に紫陽花を植え、
家の壁は地味な灰色に塗られた。
ながされてきたのよ。
おおきな波。
しろくあわだつ波、
チガヤの穂のような、
しろくなめらかなこまかい泡の波、
秋には赤く染まる波。
帰りたい、帰りたい、
でも、おまえがいるから帰らない。
風に耳を澄ませなさい。
おまえには聞こえるはず。
わたしにはもう聞こえないけれど、
おまえにはまだ聞こえるはず。
覚えておきなさい、
七回目の大波がきたときに、
乗り遅れたら、
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