ひとりぶんの空間/エズミ
がいくつも打ち寄せられていた。水際から掬いあげようとすると、挟んだ指先で割れてしまう。見る間に粉々に砕けてゆく。白い細かなばらばらは、たちまち波に攫われ、ちりぢりに消えてゆく。
この世のどこか空が近い国の、とある高みに白い砂で出来た砂漠があるという。白い砂の正体は石英。微細な透明が粒になって乱反射しているのだ。一粒ひとつぶに碧天が映りこんでいるのだ。
手刀を切って空間を開いて、蝸牛をとりだして恋人に見せる、という夢を見たことがある。わたしたちが居たのは駅までの一本道だったが、スクリーンを裂くような具合に開いた奥には、雫を載せて撓んだ枝葉が重なっていたから、どこかの林だ。殻の両面に渦巻きをなぞるように角が生えている、ちいさい、殻の薄い蝸牛だった。わたしはその名前を知っているが、はずかしいので口にすることが出来ない。いまでもその名は憶えている。
戻る 編 削 Point(2)