蒸し焼きの雨/岡部淳太郎
おまえは六月の失策。六月の、この一年の半分だけの失策。あと半分だけ残された道の上にも、蛙の歌が鳴り響いている。靴裏は必ずといっていいほど、水たまりを踏み外す。おまえは取り囲まれた雨の落丁。鞄の中の本は、表紙から数十ページが皺になっている。
くるいあめ
ふるいあめ
この雨にくるまって
この雨にふりわけられて
くるいあめ
ふるいあめ
新しい週の始まりに
傘は正しく捩れている
雨に濡れるのを恐れた人が、白い肌のままで蒸されている。返ってくるのはいつも雨。魚臭い店先で、知らされることなく貝の泡が破れている。どんよりと、ただどんよりと生きていけ。信号の前で立ち止まり、速度を緩めない車を見ながら、ゆっくりと振り返る曲線。どんな色も、けっして身にまとってはならない。おまえは正午の病。背後には汚れた泥が、踏み荒らされて、降り積もって、
六月の雨は、ただ垂直に寝そべっている。
(二〇〇五年六月)
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