メキシコ/大覚アキラ
メキシコ国境近くのカフェは真夜中
フラミンゴ・ピンクのヒールを両手にぶら下げた女が
土砂降りの雨の中で古いジャズをくちずさんでいる
おれの瞳孔には血まみれの母の姿が焼き付いて消えやしない
雨は地下鉄のホームを時速200キロで駆け抜ける列車のような轟音をあげて
投げ捨てた煙草は紫の煙をたなびかせながら
おれはもうすぐ自由の身だ
さらばアメリカよマクドナルドよコカコーラよマルボロよ
あの夏の日の太陽の下で
白い大きな犬と戯れていたおれはどこへ行ったんだろう
あの森の奥で見た青い鳥はどこへ行ったんだろう
おれの失ったものすべてを取り戻すために
さあ一緒に行こうスゥィートハート
耳元で囁いてアクセル踏むメキシコ
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