扇風機/haniwa
扇風機のスイッチを入れて
淀んだ空気をかき回すと
少しだけ軽くなったような気がした
このまま回し続ければ飛べるかもしれない
熱帯夜に猫は冷たい感触を求めてアスファルトを転がり
僕は徐々に重くなる受話器をなんとか支えながら
扇風機のスイッチを入れる
右に歩いていったタバコの煙は吹き飛ばされて左に消える
その先には真夜中の宇宙がある
本棚は意味深に沈黙を守る
田舎の広い座敷で絵日記を書いているような気分だって
思い出せそうな気がする
夏の夜に滲む汗は嫌いじゃない
太陽に照らされるよりはましだ
そう言うと従妹は
私は昼の風に乗りたいの
呟いて扇風機を止めた
蛙の鳴き声と欠けた月がぼやけて
何度も訪れた新しい夜に
人工的な風が諦観を覚えた
ただの一つの初夏の夜だった。
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