夕陽ヶ原/落合朱美
 
紅い雲を眺めながら
飛ばした自転車の
速度とか

漕いだペダルの
重さとか
まだ鮮明におぼえてる

あの日の風は
ことさらに透明で
沈んでゆく太陽の
頭をそっと撫でていた

聞きたかったのは
いいわけなんかじゃなくて
嘘でよかった

バカな私がいともたやすく
信じてすがってしまうような
嘘がよかった

その気になって
一瞬だけの幸せに
浸っていたかったのに


女ひとりも騙せない男なんてね。





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