遠い記憶の風船/Kaorinko
 
車では
足を組まない
「車で足を組むと骨盤がゆがむ」
昔、恋人が言った
忘れていたのに習慣になっていた

「今度の土曜海に行こう」
という最後のメール
私がいなくなったら彼はどれだけ
悲しい思いをするだろう 
彼を思って泣いた三年間
海に行きたいの
三年の間三回夏が来たけれど
一度も行かなかった
そして最後のメール
最後までどこにもいけなかった
三年間の気持ちが
ぽっかりと宙に浮いている

子供が産まれたと風の便りで聞いた
一度くらい海に行ったか、行かないような、
遠い記憶を手繰り寄せ
赤いペンで大きく印をつけ
風船をふくらませて
飛ばした
戻る   Point(1)