大政/狸亭
来る日も来る日も無理難題
苦労したなあ
もう四五年前になるかなあ 娘さんが死んだときいた
車のトランクに仕掛けられた爆弾で悲惨な最後だった
ひとり息子はパリにいっているとのことだった
あの美人の奥さんも歳とったろうな
嫌われ者の実力者も
家族たちに囲まれているときは幸せそうだった
女房子供はフランス語がとくいで家では洒落た会話をたのしんでいたっけ
僕らとは英語でしかつうじなかった大政に家族たちがうっかりフランス語で話しかけると大政は一瞬きょとんとしたっけ
大政一家の共通語はアラビックで
奥さんと息子さんは英語もできた
果てしない内乱つづくレバノン
ベイルートで
大政は死んだ
あの大政が死んだ
どんな死にざまだったのだろう
畳の上で死んだのか 娘さん同様 爆死だったのか
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