十年後/岡村明子
 
(十八歳のノートより。走り書き。)
整然と暮らす人々への激しい憎悪
違和感が劣等感でしかないことを理解して私は身悶えた
一時もここにいてはならないという強迫観念
しかし他にいるべきところもないという現実
かつて「家族」と呼ばれた集団がいたがらんどう

私の苦悩に答えるべきものは今や私の中にしかない
心の中の私を去ることはできない
孤独はどこにもない

* * *

あれから十年
私の心は安穏として
かつて吹きぬけた疾風怒濤のかけらも
埃をかぶっている
かつて「家族」と呼ばれた集団がいたがらんどうには
もう五年も会っていない弟が一人きりで住んでいて
母は東北の小さな町にひっそりと暮らす
私は父と二人暮し
暮らすという営みは
誰をも平凡に生かしている
でも
四人で写っている写真は一枚もないから
私は今でも家族の像を結べない


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