裏奥羽/朝倉キンジ
細倉鉱山は
日暮れにどこかへ通じていく。
無人の坑道の先にあるのは
ほんとうの地名か
親しい人のまぼろしか。
夜,蔵王の山陰に
たよりない記憶はのみこまれ
吹き越す風に
湯屋の音がまじると
賑やかな座敷の母がなつかしい。
遍路宿には
汚れた赤いうちわと
格子向こうの閉じた仏壇。
幾重の山あいに消えた
生活のにおいが追ってくる。
所違えど何時だって
青い夜に立ち尽くしながら
自らの陰影を感じ
消しても消しても
過去から聞こえ続ける
口笛をうけ負って
私は歩いてきたのだから
何処からかわからない
やさしい眼差しに見守られて
い草くさい奥の系譜,
その古い名を越えてゆけ。
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