左川ちかアーカイブス/佐々宝砂
く、考える。
「緑」
朝のバルカンから 波のやうにおしよせ
そこらぢゆうあふれてしまふ
私は山のみちで溺れさうになり
息がつまつていく度もまへのめりになるのを支える
視力のなかの街は夢がまはるやうに開いたり閉ぢたりする
それらをめぐつて彼らはおそろしい勢で崩れかかる
私は人に捨てられた
彼女が書きたかったことは「失つたものは再びかへつてこないだらう」と「私は人に捨てられた」ということだけだったのかもしれない。けれどたぶん、そう書くだけでは足りなかったのだ。だからいろんなモノ、たとえば「ばら色の鳥」や「青い魚」を出してきて、何かを象徴せずにはいられなかった。山のみちで溺れそうになるどこか不思議で切ない状況を書かずにいられなかった。私にはそんな気がするのである。
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