Air/岡村明子
 
いい天気ですね
がはじめの言葉だった
G線上のアリアが流れていて
あんまりできすぎたシチュエーションに
笑いをこらえるために
コーヒーを一口すすってから
やっと私は
ええ
と答えたのだった

その日
私は大通りに面した喫茶店で
本なんか読んでいたのだ
本当のことを言うと
こんなに晴れた冬の休日に
オープンカフェで読書に耽る女
を気取っていただけなのだが

声をかけた男は
向かいに座りコーヒーを注文した
本がお好きなんですね
という問いかけに
ええまあ
と曖昧に返事をしながら
不意に
子供の手から離れて飛んでいく風船が
目の端に映ったような気がして
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