『琥珀の襟巻と銀の兎』 第四章:龍にならなかった蛇/板谷みきょう
世界に「欠け」が生まれたころ。
屏風山の青蛇は、
荒れる海の前に身を伏せていた。
水はどこまでも冷たく、
深く、
底はまるで見えなかった。
蛇は、
この悲劇の連鎖を止めるために
「すべて」を知ろうとした。
神である龍になれば、理を組み替え、
誰も泣かぬ世界を作れると信じたのだ。
だが、海へ進むたび、
蛇の体から何かが削がれていった。
誰かの呼ぶ声、肌の温度、小さな情愛。
神になるためには、それらをすべて捨て、
冷徹な理の一部にならねばならなかった。
蛇は入り江で引き返した。
龍という名の全能に至る道を
守るのではなく、名も得ず、
無力のまま入り江に留まる道を選んだのだ。
蛇にできなかったのは、世界を正すこと。
ただ、名もなき敗北者として、
誰かの悲しみと共に泣くことだけが、
その体に残された最後の人間らしさだった。
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