『琥珀の襟巻と銀の兎』 第三章:かもめが運んだ蒼い鱗/板谷みきょう
 
朝が近づく頃、一羽のかもめが
低く海面を渡っていった。

そのくちばしには、
海の底の人魚が託した、
一枚の蒼い鱗が挟まれていた。

長い夜のあいだ、
人魚は海の上を走る兎たちの足音を、
やりきれぬ思いで聞いていたのだ。

命という名の足音が増えるほど、
光の届かぬ海の底は皮肉にも
静かに冷えきっていった。

かもめは高く空へ昇り、
きつねの膝元にその鱗を落とした。

拾い上げた瞬間、
きつねの指先はわずかに震えた。

蒼い鱗は夜の海の凍てつく冷たさを
そのまま閉じ込めたようで、
掌にのせただけで、
きつねの胸の奥までを静かに凍らせていった。

そこには言葉はなかった。

ただ、これ以上光がこぼれれば、
戻れないものが増えるだけだという、
取り返しのつかない重さだけが伝わってきた。

きつねは改めて襟巻に触れた。

それが月を絞る道具である前に、
誰かのぬくもりそのものだったことを、
その冷たさの中で思い出した。
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