一日半/田中教平
 
はシャーロック・ホームズ氏によるものだった。曰く、記憶と言うものは箪笥の中の衣類と一緒であって、箪笥に充分衣類が入っていては、あたらしい物は入らない、だから、不要なことは忘れてしまおう、という言葉であった。この言葉を初めとして、この端的に物を云う探偵をユウスケは好んだ。
また、ユウスケは原稿のコピーを残さない男であった。原稿のコピーは不要である。作は作として成ったら、次が遺稿になるかもしれないのだからそれに力を注ぐ。だからユウスケの書斎はさっぱりしていた。書斎が乱れているとしたら、それはカナのなんでもコピーしておく習いに起因していた。
「ねぇ、見てみて、ほら」
と言ってカナが書斎に入ってきた
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