区域B/後期
 
内人が近づいてきたので、私は尋ねた。

「何が展示されているのですか」

案内人は少し胸を張り、当然のことを説明するように答えた。

「区域Bです」

私は一瞬、聞き違えたかと思った。

「いえ、展示物のことです」

案内人は表情を変えずに言い直した。

「撤去された跡です。区域Bでは、これが展示になります」

なるほど、と思った。確かに壁には、何かがあった気配だけが残っている。釘穴のようなものが見える気もするし、見えない気もする。その曖昧さ自体が、ここでは完成なのだろう。

私はしばらく壁を眺めてから外に出た。何を見たのか説明する言葉は、最後まで浮かばなかった。ただ、説明できないという状態だけが、妙に確かな手触りをもって残っていた。それで差し支えないのだと、どういうわけか分かった気がした。私はいつからここが区域Bになったのか、覚えていない。
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