赤箱を探して/花野誉
体を洗うのに
ずっと使っている
赤箱の石鹸
気づけばストック切れ
急遽ドラッグストアへ
棚には青箱ばかりで
赤はない
二軒目で
ようやく見つかる
当たり前にあると思うものが
そこに無い時の焦燥
ふと浮かんでくるのは
平成七年のこと
震災のあと
水道から水が出たこと
ガスが使えたこと
お風呂に入れたこと
たくさんの
あの時の感動を
もう忘れている
喉元を過ぎ
辛かったことも
こんなにも
あっさり
赤箱を探し求めたことも
忘れてしまうんだろうか
今日はまだ覚えている
手のひらの新しい石鹸
しっかり泡立てて
丁寧に体を洗う
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