クラクションが、鳴ってる/望月 ゆき
 
はかりしれないほど
スィートな加速度で
ぼくたちは走っていたので
日々の円周ばかりを、何十回とまわり
あしたの記憶だけ
どこかに置いてきてしまった


クラクションが、鳴ってる


きみの左手のひとさしゆびに刺さった
数ミリのトゲ と
同じあやうさで
とどく


いつのまにか好きになってたんだ
って、
きみに話したそれは
たぶん嘘ではなかったけれど
今ならはっきりと、わかる
円周の途中の、あの点だった、

たちどまったとき、気づく
そうして、そのときも


クラクションは、鳴っていた
かさねた手と手のすきま
あるいは
かさならない、くちびるの温度
きみとぼくから
そう遠くない場所 で


おわってゆく方向性でしか
気づくことができない 
あしたに
目を、耳を、すましながら
ぼくは赤いラークに火をつける





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