鯨の音/森 真察人
 
にどうも函の中には石板様の硬い何かが入っているようなのだが、なにしろ函は遠く海の底で鳴っているのだ、僕たちがその中身を確かめる術はなかった。
鯨には餌をやる必要があった。ときどき鯨は高音とも低音ともつかない不思議な、しかし不愉快でない声を鳴らして餌をねだる。陸地の見当たらないこの世界で僕たちがどうやって食糧を得るのかといえば、それは空から降ってくるのだった。僕たちが腹を減らしたとき、また鯨が鳴くとき、きまって空から乾いた、白いパンのようなものが鯨の背に向かって降ってくるのだ。そうして僕たちはそれらを頬張ったり前方の海に投げて鯨にやったりする。このとき、このパンのようなものはきまって鯨の背に向かっ
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