鯨の音/森 真察人
 
ること、失敗すれば鯨は爆ぜるということ、鯨が育つ条件は餌をやることだけではないということ、僕たちは進まなければならないということ??滑らかな語り口を小休止して、少女は僕に尋ねた。前の少女をあなたは少女のためにのみ愛していたか、と。僕は黙(もだ)した。
少女は話を続けた。曰く、鯨を育て終えたひとびとの国があると。そこは、巨きくなった鯨でのみ辿りつける大陸であるとか、鯨の潮でもって打ち上げられてはじめて天空に張られたそこに行かれる城なのだとか、いろいろな話があるそうだ。

海鳥が僕の胸を通り過ぎた。僕は泣いた。僕を見て少女は、僕の胸にできた黒い滲みをさすって、一緒に泣いた。
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