砂の人/秋葉竹
 


砂塵のなかで
無言でこちらをみつめる女の人がいた

なにも知らないほど
まだ若そうでもあり
なにかを諦めるほど
歳を経ているようでもあり
黒ずくめのスウェットを着て
漆黒の髪は短く切りそろえ
針金で編み上げた
細い影かなにかのようにみえた

それで
正しいものをみて生きようとする
光を放つような目の力が印象的だった

わたしと目があうと
くるりと背中を向けて
女の人は砂塵のなかへ消えていった


わたしについて来いと
云いたかったのだろうか

それでもわたしは日々を過ごして
その後ろ姿を忘れられないまま
ずっと暮らしに埋もれて来た
悔い
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