甘夏/英水
 
窓ガラスを伝う結露と同じくらいの速度で
ミルクが部屋中に響き渡っている
ミルクの連れてきた君が、囁く

大好きだよ

君の傍らで、始終うなだれている夏は、
さようなら、と駆け出そうとしている

もうすぐ、通り過ぎるよ
もうすぐ、通り過ぎるよ

僕は聞こえないフリをして、赤い耳をしばらくほおり投げた

ミルクは熟れたら、甘い柿になるのかもしれない
君の足元で、だらしなく赤い甘さを垂れ流すのかもしれない

それは決してミルクのせいではなく、ましてや君のせいなどでもない

ただ、夏が甘いフリをして、
目の前で
カラカラカラカラ
回転している

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