甘夏/英水
窓ガラスを伝う結露と同じくらいの速度で
ミルクが部屋中に響き渡っている
ミルクの連れてきた君が、囁く
大好きだよ
君の傍らで、始終うなだれている夏は、
さようなら、と駆け出そうとしている
もうすぐ、通り過ぎるよ
もうすぐ、通り過ぎるよ
僕は聞こえないフリをして、赤い耳をしばらくほおり投げた
ミルクは熟れたら、甘い柿になるのかもしれない
君の足元で、だらしなく赤い甘さを垂れ流すのかもしれない
それは決してミルクのせいではなく、ましてや君のせいなどでもない
ただ、夏が甘いフリをして、
目の前で
カラカラカラカラ
回転している
戻る 編 削 Point(1)