ある詩人の絶筆/こしごえ
 
空には羊雲
空の底には私
私のほほにそよ風
そよ風に
無限の光
思い出して
あのまなざし
まなざし深く静か
遠く
遠くて近い

あのまなざしの魂
まなざしの魂と
近くて遠い
大切な悲しみ
大切な悲しみとは たとえば
二度とは呼ばれない名前
二度とは返事を出来ない名前。
ここで終わるのか
私の一生は
幸せな一生だった

今の内に言っておこう
ありがとう

空には羊雲、
空の底には
空の底には通りすぎたそよ風の忘れもの
そよ風の悲しみに
無限の光
無限の光と
無限の影
かつて
在った





 ※ 初出 2025.09.16 日本WEB詩人会
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