終わらない夏/リリー
 
 雑木の密生する土手の外れに
 一本の柳の木が俯いて
 午後の暑熱を滲ませる貯水地の水面を
 のぞき込む
 
 鳥も来ない
 辺りに虫の音の靄る静かさ
 濃い藍藻に覆われた沼底でまだ
 蝉たちが啼いている

 にわかに目の前を
 交尾しながら飛ぶ蜻蛉が
 跳ねるように空を切って
 生い茂る水草の蔭に消えた

 薄い曇硝子が割れて
 鼻腔へ流れこんでくる
 乾いた草を撫でる陽の匂いと
 混じった強い泥臭さ
 ハッと
 沼に眩く褐色の影像へ
 眼を奪われる

 けぶっているのは私の頭なのか
 夏が、水面から
 血管の浮き出た太い両腕を
 伸べている
 口をつぐんだ空へ
 
 
 
 
 
 
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