郊外の熱射/飯沼ふるい
 
日々の一

 絨毯に鍬形虫の脚ひとつ

 待ち人や蝿打ひとつ納屋の底

 冷房をかき分けて寝る三歳児

 子午線をくぐれ蚊遣火黙々と

 汗拭きてすわ首筋の揚羽蝶


水の二

 梅雨空に還す吐息ぞ青白く

 紫陽花の露も乾きぬ多生の縁

 良縁の跡形もなく蛭蓆(ひるむしろ)

 遠蛙羅生門へと至る道

 白雨切る熊鈴鳴りし愛宕山


宇宙(そら)の三

 翠嵐と遊ぶ雲にも道理あり

 イカロスは堕ちて井桁の黄金虫(こがねむし)

 昔日の夢泡立ちぬ斑濃(むらご)かな

 金星を仰ぎ進むや蟻の列

 黒南風(くろはえ)の満ち渡りたる宇宙項
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