今夜だけ、悲劇のヒロインぶりっこ。/りつ
 
なにひとつ
楽しい思い出はなかった
食べることには困らなかった
勉強だってできた
恵まれていることなど解ってた
だけど、こころは?
こころは恐ろしいほどからっぽで
生きている気がしなかった
不幸も幸せも
知らなかった
いや、
ひとりで本を読んでいるときだけ
幸せだった
何にだってなれた
絶世の美女になるのが好きだった
愛さずにはいられないけなげな少女になるのも好きだった
無邪気に書き始めた詩も
サリエリの苦痛を味わった
努力だってしたよ
モーツァルト(彼女)と違う表現を追い続けた
それでも敵わなかった
強がるしかないじゃないか
それ以外に
自分を守るす
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