喪失/花形新次
最近気に入った歌が
十年も前に
流行ったことを知って
俺はその頃
一体何をやっていたのだと
愕然とする
記憶には薄っすらと
霞がかかり
もうはっきりとした輪郭では
捉えられない
失われた三十年どころか
俺の一生は
時計の針にズタズタに切り裂かれて
失われた時の中に
完全に埋没してしまったみたいだ
自分でも気づかないうちに──
自分が知るべきだったことを
知らないまま通り過ぎてしまうこと
これはあまりに
怖ろしいことだと思わないか
だからといって
取り戻せない時を
嘆いたとしても仕方ない
おまえの終わりは
もうそこまで来ているのだから
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