手の中のクスサンは/ただのみきや
 
力ない羽ばたきだった
抗うにはあまりにも 
変身するためにひたすら食い
変身したらひたすら交尾する
仔の頃に食われたら負け組
交尾産卵の後なら勝ち組だ
去る夏の背
しっぽり濡れた夜
その忘れ形見は早朝から
カラスに食われスズメに食われ
枯葉のような翅だけがそこかしこ
胡乱な瞳で見上げていた
異人にことばを継がせようと
舞台上にはいつだって
傾いだ季節が
非在の女神が
両掌にそっと
クスサンをつつめば
近所のこどもらは変な声を上げ
おとなたちは顔をしかめる
刺しも咬みもせず
毒もなければ痒みもしない
擦り切れた脆弱ないのちの残り香を
嫌うのもまたしかたの
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