琵琶湖で出遭った奇妙な人/花野誉
いしょっと上がってきて、助けにいった三人に何も言わず、そこをすり抜け、全身ずぶ濡れのまま、また元いたベンチに来て座った。
私達は呆気に取られて男を見つめていた。
NとSは不思議な面持ちで男を見ながら、男の前を通り過ぎ、私の前にやってきた。
「どうしたん?あの人、どうしたん?」
Sは、お茶目で屈託のない、あけすけに物を言う人だったけれど、この時はすごく小さな声で話した。
Nは「思うところがあったんやろう」と、これまた小さな声で話した。
私は何も言わず、びしょ濡れの男をそっと見ていた。
その後、三人で小声で話し合い、また男が飛び込んだら大変だから、もう少しここで釣りをしようということになった。
彼らはすぐ、釣りに没頭していったけれど、私はその男が気になって、琵琶湖を愛でるところではなくなった。
頭の中でこの先の展開や、男の人となりなど、色んな想像をした。
だいぶ経ってから、男はスッと立ち上がり、何処かへ行ってしまった。
私は妙な緊張感から解き放たれ、またゆっくり琵琶湖を眺めることができた。
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