月は夜を統べる、幻想の義眼を髑髏にはめて。/菊西 夕座
ンの丘となって虹色の花畑を胸筋へ延ばす
荒々しくも壮麗な鳴子峡の紅葉が肌一面を包む体毛となり
田里津庵(たりつあん)の窓から広がる海庭園(かいていえん)の松島で股座(またぐら)をうめる
極楽のほとりを閉じ込めた輪王寺(りんのうじ)の庭が手のひらに花開き
私の肉体が滅ぶときには輪王寺(りんのうじ)の庭にわたしの精神が返る
その繁みで覆われた神秘的な参道に、五重塔の下の池に、
池をめぐる紫陽花や菖蒲(あやめ)、色と形と種類が豊かな敷石に、
松や桧(ひのき)や百日紅(さるすべり)、かたすみでひっそりと身をくねらすネジバナに
松島の海に、鳴子の山に、やくらいの丘に、蔵王の御釜に
妻の手をひいて塩竃神社へのぼり境内の桜にわたしは返る
鏡と同じツキ人でしかない私たちだからこそなれた化象に
愛した色に、溶け込めた音に、親しめた匂いに、すっかり移ろう
肉体は精神を宿すことで生死を超えた存在に転じることができる
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