element/こしごえ
「忘れないで、この時を・・・」
川べりに立つひとりの女が、午後のやわらかな日差しのなか空をみつめている。
ここは多摩川のほとり。多摩川遊園だ。
7月の昼過ぎに、思い思いのようすで(地面に寝そべっているカップルやバーベキューをする若者たちや
兄弟でじゃれあう子猫たちやらで)和んでいる。
その上空では、果てしなく白い月が、ほのかに安らいでいた。
女の名前は、いまのところ無い。いや、無いわけはないのだが、この女にとっては無いということらしい。
女は、空から目をそらし歩き出した。
「名も無き詩(うた)よ。
名も無き詩は、どこへ行く。
名も無き詩に、居場所は無い。
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