認知症ぶれいく/洗貝新
 

信号機の青 と、
群青色の空が重なって
眩暈に吊られてしまいそうになる

一日の仕事が終われば
世界の一日が始まる あさぎりの夏

また朝刊二軒分ほど残ってしまった
むろんわたしのミスには違いない
思いもよらない場所を過ぎていたのだ
引き返して過去を確かめてみる
それは昨日のことか今日のことか
実は過去がよくわからなくなっている

ポストを開けて
忘れていた場所を探しあてた
一件でなくてよかった
一件ならばもっと手間も時間もかかるのだ

裏駅の外れで若い男性が蹲って座り込んでいる
昨日と同じ場所/同じ時間
服装も同じで
蹲る姿も同じ男性だった
駅の手前に黒い軽自動車が停車している
昨日は停車していなかった /はずだった
だから間違いない
今日は昨日ではないのだ

群青色の空と、
信号機の青が重なって
押し戻されそうになる眩暈に

何かを忘れてしまえば
思い出す知らない世界がある あさがをの夏






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