そばにいて/リリー
 
 東の窓辺で目を覚ます
 ゼラニューム
 もどり梅雨の雨声が
 耳にしたしく寄ってくる

 麦芽のような珈琲の香りと
 かるくトーストしたクロワッサン
 昨日の埃とまざりあった
 私自身がふてぶてしく
 甘美な朝を演じて

 杳かなる夜半の夢と
 今をつなぐ銅の鎖のほどける音が
 固い路面に浸む
 私へ背中を向けて
 窓の外をながめている
 ゼラニューム

 小降りになって
 明るんできたから
 どこかに虹でも出れば
 誰かの朝を素敵にするかも
 あのガレージの水溜まりの側で
 羽繕いしている濡烏、
 これから恋人に会いに行くのかも

 ふと詰まらなくなる私の顔を
 横目に見る
 たわやかな美しさの赤い貴女は
 一言もなく凛として嗤う


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