初恋 /月乃 猫
きと やったこともない考えに耽る
ツメタイコーヒーを差し出す 細いミルク色の指を見つめ
三十種類のインスタント・コーヒーのブレンドに マスターは、
少しのスパイスで、挽いたものに引けを取らぬ飲み物をだした
忘れた頃に女給の手は、手巻きの蓄音機のレコードを返し
雨の日の大仰なツゴイネルワイゼンを 響かせる
灯りは白檀の香りの油燈火
いわく、呪いに白蛇だった女は、人の姿を市杵島姫命にすくわれた
「 若様は、一緒に死んでくれますか、そのときは、きっと・・・
口癖は、心をゆらし
情死も 心中も 日常のことなら
親の悲しい顔を追いやり
約束は果たされるかもしれず、
果たされないかもしれぬ
未だ寄り添い 忘れられぬ若かりし頃の
恋
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