供花/飯沼ふるい
 
いて
無限の、その一歩手前ほどの意味を孕む雨だ
彼女は雨に濡らされている

華奢な彼女の背中と
それを眺める自分との間に潜む
湿った空気のせいで
古いアスファルトがふやけていく
蜘蛛の食事のように
古いアスファルトはゆっくりと彼女の真っ赤なハイヒールを飲み込んでいく
踝、太もも、下腹部、鳩尾、胸、
彼女の姿を成すものは
しどけなげに降る雨とともに
路地の暗い影の底へ沈んでいく
はなむけに煙草を雨に晒すと
ほの赤い熱源が音もたてずに冷えた

彼女の姿がこの世界のどこにも見えなくなる
雨が止む
似たりよったりのアパートに挟まれた
細い道の遥か向こうで
虹の切れ端が覗いている
向かいの部屋のベランダでは
放置された観葉植物がじっと枯れるのを待っている
彼女のことばの落ちた所は陽炎で滲んでいた
次の煙草に火をつける
路地裏、午後三時、大安の日
戻る   Point(5)